麗しい風景に欠かすことができない樹木

2012.01.07

樹木は都市やその近郊だけでなく、田園においても、麗しい風景に欠かすことのできない存在だ。それは単に風景にうるおいを与えてくれるなんていうだけではない。樹木は、生命の全体性や存在としてのあり方を無言で語り続け、それゆえに人は自らとまったく違う存在である樹木に惹かれる。サイクリングを長く続けてきた人には、忘れることのできない樹や木立の記憶がひとつやふたつあるのではないだろうか。私が東京の多摩に初めて暮らした頃、国立や国分寺や金井には椋などの落葉樹の木立がかなり残っていて、それだけは静岡県中部西部の平地には見られぬものだったので、くたびれたミニサイクルをギコギコ漕ぎながらも、けっこう感動していたものだっけ。

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長野県の伊那市には、ひがしはるちか(東春近)という、素晴らしい語感の地名を持つところがある。桜で有名な高遠のほうから流れてきた三峰川が、天竜川に合流する手前の左岸、開けた扇状地状の田園が広がっている辺りだ。ある真夏日に、そこを先輩のM氏と流していて、階段状の田んぼの中にぽつねんと数本の木が立っているところを見つけた。どうやらもとは小さな広場のようで、遊具の鉄棒もあったようだが、すでに草ぼうぼう、それでも空地がありがたく、われわれはコーヒーを淹れて一休みしたのだった。今でもあの木々は残っているだろうか。このところ花粉の飛散などで槍玉に挙げられ、ちょっと気の毒な杉の木だが、杉の木の冠だって地方ごとにシルエットが違う。温暖な静岡から、長野県の松本平や長野盆地などに出かけると、杉の格好が妙にスリムで整っているのがよくわかる。私は当初、これは静岡のように強い風が吹くことが少ないからだろうなと思っていたが、教えていただいたところ、積雪のために、横へ張り出す枝の長さが限られるせいであるらしい。そういう具合で、同じ種類の本だって姿形が変わるくらいの日本だから、ちょっと植生注目すると、スローに走りながら、実に風上色豊かな木々や木立に出会うことができる。南西日本は、温暖な気候を反映して、照葉樹林と呼ばれる常緑の森がベーシックな植生で、これは楠や樫などだ。葉が厚いので、照葉樹の木立の中は昼間でもうす暗く、あまり下草も生えない。




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